物語を売り買いする

すべては妄想の産物である

雨は空の涙じゃないんだよ。 雨の正体は、そりゃあ口では言えないくらいヒワイなものだ。 でも、だからこそイイんだよ。 と、芥子の花は背筋を伸ばして、私の目の前で1cm背を伸ばした。

テクニカル・ノック・アウト

ざまあ見ろと思った。 スコールが降ったのだ。 私の勝ちではないけど、相手の勝ちでもなくなった。 引き分けだ。 ざまあ見ろ。すべて濡れた。台無しだ。 私はほくそ笑んで、結婚式場を後にした。 帰宅し、バスタオルを頭から被った。 滴る水滴を絞るように、…

郷愁

私は家に帰ろうとしている。 私は家に帰りたいと思っている。 でも家がどこだかわからない。 私に家があるのかもわからないんだ。 私の帰るべき場所はどこだろう。 命の費える前にそれが見つかるか、どうか。 それを見つけるために、私は飛んでいる。 私の羽…

血痕

自分の血の味は他の人のそれと違うなあということなどを、死に行く吸血鬼は思うのだろうか。 ということを、今まさに死なんとする蚊は思った。 自分の血はもとは他人の血であったのではないか。 とも、思った。 潰されながら、思った。 自分の所在が分からな…

「運命」

学校からの帰り道で、ふと 近道のために、路地裏に入ってみた、ある日。 小さな小さな店がそこにあり、看板には「スプーン・ショップ」と。 私は興味にかられ、扉を引いてみた。鈴がチリンと音を立てた。 店番は小さな女の子がやっていた。髪の長い、闊達そ…

結実

ふかふかの地面にタフィを埋めると、タフィの実が成るらしい。 ということを、本で読んだ。 タフィの実はタフィではないらしいのだけど、タフィを思い起こさせるような味をしているらしい。 というので、さっそく私も試してみた。 ふかふかの土にした裏庭に…

マザー・ウォーター

彼女の身体は、ふつうの人よりも、水分含有量が多いらしい。 そういう体質なのだそうだ。 そのためか、夏、スイカを食べた後の彼女の身体は、しばらくひんやりと冷たく、 冬、お味噌汁を飲んだ後の彼女の身体は、しばらくの間、じんわりと温かく感じた。 水…

苺の体内

ある日、女の子は世の中のすべての事がいやになりました。 なにもかもが、つまらない。 そう強く感じて、女の子は憂鬱になりました。 すると、大きな苺がやってきて、彼女のとなりに座りました。 なにもかもが、つまらないかい。 つまらないわ。 そっか。 言…

空とその細君のおはなし

その少女は優しく、聡明であったため、空に見初められた。 空は彼女の前に跪き、心からの言葉を尽くして求婚した。 少女は悩んだが、それを承諾した。 空の下、彼女は強く美しく育った。 雨の日も、風の日も、彼女は空に愛されていることを感じた。 ある日、…

砂糖細工

ある寒い冬の 日 あたしは付き合っていた人に ふられ、泣きながら 道を歩いていました。 どうしたの? と、声をかけてきたのは、ひとりの、若い男の子でした。 色白でひょろっとした、背の高い、17歳くらいの男の子でした。 彼は、あたしを慰めてくれました…

XXY

その三毛猫は両性具有だった。 性遺伝子がXXYという、ちょっとした奇形だったのだ。 それは男性の形をしていたが、生殖能はとても弱かった。 そして女性的な美しさを持っていた。 その三毛猫は眠った。 雨季の、凶暴な生命力がむんと立ち込める、ブナの森の…

蝶の自我

水田に張られた水が鏡になって、蝶に自我が芽生えた。 蝶は思わず、水面を乱した。 大きな鏡は体を震わせ、少しずつ、自分を取り戻していった。 「生き物の苦しみの種は自我にあるのかもしれないと思わないかい?」 水は言った。 自分の肢を、自分自身の姿を…

砂糖菓子のブレスレット

甘党の小父様が、上質の砂糖を何種類も煮詰め、特殊な硝薬を混合して作ったビーズたちだそうです。 その硝薬は、なんでもガラスにしてしまうので、小父様の中指の先は、少しガラス化しています。 以前不注意で、指を付けてしまったそうです。 とはいえ、この…

芍薬姫

「上質なシフォンのシーツは、柔らかくてとても肌触りが良くて 吐き気がします。 私はいつまでここに居ればよいのでしょうか」

あまぐもブローチ

あまぐもはいつも、青空に愛された白いくもに嫉妬していたのでした。

はちみつのネックレス

秋のある時、道端で女王蜂が倒れていました。寒い日でした。 大丈夫?と尋ねても返事はなく、死んだのかな、と思いました。 すると「花を」と、どうやら、その女王蜂が言ったようでした。 「秋だからめぼしい花はないけど」私は秋の野花を摘み、差し出しまし…