自分の血の味は他の人のそれと違うなあということなどを、死に行く吸血鬼は思うのだろうか。
ということを、今まさに死なんとする蚊は思った。
自分の血はもとは他人の血であったのではないか。
とも、思った。
潰されながら、思った。
自分の所在が分からない。
私の血は他人の血であり、この血が私を生かしている。
この血が運ぶ酸素が私のお脳を動かし
と、考えたところで、蚊はティッシュにくるまれ、ゴミ箱に還った。
蚊の末期の思考は線香のけむりのようにあたりを漂い、そのあと誰かがそれを吸い込むまで、ゆらゆらとゆらめいていた。