「運命」
学校からの帰り道で、ふと 近道のために、路地裏に入ってみた、ある日。
小さな小さな店がそこにあり、看板には「スプーン・ショップ」と。
私は興味にかられ、扉を引いてみた。鈴がチリンと音を立てた。
店番は小さな女の子がやっていた。髪の長い、闊達そうな女の子だ。
「いらっしゃいませ。あなたの、運命のスプーンをさがしてね」
運命のスプーン、という言葉にひっかかりながらも、私はスプーンをじっくり眺めていた。
そこには所狭しとスプーンが飾られていた。
木製のスプーン、金属製の…金色、銀色のスプーン、プラスチックのスプーン。
新しい、古い、大きい、小さい、様々な形のスプーン。
200くらいのスプーンを眺めた。
なるほど、運命とはよく言ったもので、私は、ひとつのスプーンに心奪われてしまった。
それは何の変哲もない…銀色の、なだらかなフォルムのスプーンだ。
しかし私は、魔法にかけられたように、それにどうしようもなく執着してしまったのだ。
手に取ってみた。スプーンは、私の手にしっくりと馴染み、私はもう、手離せなくなってしまった。
「運命のスプーンですね」
店番の女の子がにっこりと言った。これ買います。いくらですか。と問うと
「それ、本来はアイス専用のスプーンなの。お姉さんは、アイス1つに、どれだけお金を出せる?」
えっと、うーん、1000円くらい?
「わかったわ。じゃあ、1000円頂きます」
損なのか得なのかわからないまま、お金を支払った。
スプーン・ショップを出て、路地裏を抜け、コンビニに寄って、私は帰宅した。
コンビニで、安いアイスを買って帰宅した、スプーンを早く、使ってみたかったのだ。
スプーンを洗い、アイスをひとさじ、すくって口に運んだ。私は驚いた。
今まで食べた、いかなる高級アイスよりも、そのアイスが美味しく感じたのだ。
あっというまに、私はその、安いアイスを、美味しく平らげてしまった。
このスプーンにどんな魔法がかけられているのか、わからない。
その後、私はアイス以外のものも、そのスプーンを使用して、食べた。
しかし、アイスほど、美味しいと思うものは、なかったのだ。
私はこの世で一番すきな食べ物がアイスになった。
スプーンに合わせて、私の味覚が、変わってしまった。
だけど私は幸せだ。
こんなに美味しいアイスを、このスプーンのおかげで、食べられるのだから。