砂糖細工
ある寒い冬の 日
あたしは付き合っていた人に ふられ、泣きながら 道を歩いていました。
どうしたの?
と、声をかけてきたのは、ひとりの、若い男の子でした。
色白でひょろっとした、背の高い、17歳くらいの男の子でした。
彼は、あたしを慰めてくれました。
彼の貸してくれたハンカチからは甘いにおいがしました。
いいにおいだね、というと、彼は突然、自分の指をあたしの唇に押し当てました。
そこからは、じんわり、強い甘味が広がりました。
当然ながら、彼の口の中もとても 甘く、それ以外の身体のいたるところ
彼の身体は、砂糖のような、けだるい甘味を帯びていました。
冬と春の間、あたしたちは仲良くしました。
5月、彼が「ぼくはもうそろそろとけて死んでしまう」と言いました。
あたしが涙をながすと、「ぼくが死んだらぜんぶ舐めてほしい」と言われました。
6月、彼は死にました。
あたしはどろどろになった彼を舐めながら、たくさん、たくさん泣きました。
7月、あたしの指先から甘いにおいが漂うようになりました。
舐めると、彼の味がしました。
あたしの身体から、彼の味と彼のにおいがしました。
8月、あたしはシャワーを浴びています。
彼のことを考えながら、あたしはどろどろになって、排水溝に流れていきました。