2012-01-06 蝶の自我 水田に張られた水が鏡になって、蝶に自我が芽生えた。 蝶は思わず、水面を乱した。 大きな鏡は体を震わせ、少しずつ、自分を取り戻していった。 「生き物の苦しみの種は自我にあるのかもしれないと思わないかい?」 水は言った。 自分の肢を、自分自身の姿を認識することが、苦しみへの第一歩。 そしてそれが快楽を齎すんだ。苦しみに向かうことで快楽が産まれるんだ。 水は、生まれたばかりのオタマジャクシを包みに行った。 水田の片隅で、苦しみは保育されている。